理想の結婚、理想のポテトサラダ_『牛肉と馬鈴薯』国木田独歩
「果たして一致しないとならば、理想にしたがうよりも実際に服するのが僕の理想だというのです」
「ただそれだけですか」と岡本は第二の杯を手にして唸るように言った。
「だってねェ、理想は食べられませんものを!」と言った上村の顔は兎のようであった。
「ハハハハビフテキじゃアあるまいし!」と竹内は大口を開けて笑った。
「否(いや)ビフテキです、実際はビフテキです、スチューです」
「オムレツかね!」と今まで黙って半分眠りかけていた、深紅な顔をしている松木、坐中で一番年の若そうな紳士が真面目で言った。
「ハッハッハッハッ」と一坐が噴飯(ふき)だした。
「イヤ笑いごとじゃアないよ」と上村は少し躍起になって、
「例えてみればそんなものなんで、理想に従えば芋ばかし喰っていなきゃアならない。ことによると馬鈴薯(いも)も喰えないことになる。諸君は牛肉と馬鈴薯(いも)とどっちが可い?」
「牛肉が可いねェ!」と松木は又た眠むそうな声で真面目に言った。
「然しビフテキに馬鈴薯(いも)は附属物(つきもの)だよ」と頬髭の紳士が得意らしく言った。
「そうですとも! 理想は則ち実際の附属物なんだ! 馬鈴薯も全きり無いと困る、しかし馬鈴薯ばかりじゃア全く閉口する!」
その昔、プロポーズの言葉にこんなものがあったそうです。
『俺のために毎朝、味噌汁を作ってくれ。』
実際に昭和のお父様方の何人がこのキラーフレーズで妻を娶ったのかは分かりませんが、平成でこれを使うのはお互いにハードルが高いですよね。結婚する前に家事分担を決めつけて、毎朝パン食を許さない献立を要求するなんて(笑)
ちなみに2010年の第4回『プロポーズの言葉コンテスト』最優秀賞は、
『ボクに毎朝、お味噌汁をつくらせてください』
だったそうです。
僕は朝が弱いのでそんなプロポーズできないっす。
素晴らしい覚悟。男はこうでなくちゃ。
・・・時代が変われば理想のプロポーズも変わります。
そういえば僕はずっと理想のポテトサラダを模索しています。
男はポテトサラダが大好き。6文字のこの料理のたった二文字を抜いて「ポテサラ」って言うくらい好き。関西の女性向け雑誌SAVYの立ち飲み特集には「ポテサラ男子」という謎な企画があったくらい好き。
話を戻して自分のポテサラの問題点を整理すると、
①水分でベシャベシャになりがち
②色が黒ずんでくる
でした。
この悩みを相談したのは、
淀屋橋 じゅうじろう
06-6232-3777
大阪府大阪市中央区北浜3-5-19 淀屋橋ホワイトビル 1F
淀屋橋駅から84m
のマスター金ちゃん。
この人。
じゅうじろうのポテトサラダは「大人のポテサラ」という名前でこんなルックス。
大量の七味がかかっていますが、これがまた美味い。
女性店員に「大人の〇〇〇〇」とオーダーしてボケても間違い無くこれが出てきます。
で、マスターのアドバイスは、
「材料が冷え切ってから調理しなはれ」
でした。
なるほどね。
そんなわけで、皮付きのまま圧力鍋で蒸したジャガイモは熱いうちに皮を剥いてあら熱が取れるまで放置。
フォークを使って潰します。ポテトマッシャーもあるんですけど、つぶし具合が調節しやすくて、量が多くなければフォークを使う事の方が多いです。
ちょっとだけ塩コショウしてゴムべらで練ります。ここではまだ味を決めません。
マヨネーズを加えて、足りない分だけ塩コショウ。
材料が追加されることも見越して、ちょっと強めに味付けします。
ただ、味付けの追加はいつでもできるので慎重目でよいでしょう。
練り練りして味を確認。ここで他の材料を下ごしらえしつつ冷蔵庫で冷やします。
一度に副材料と一緒に調理しないのは、熱が移る、水分が移る、副材料が粉々になって芋に混ざってしまう、というのを避ける為です。
唐突ですが、ササミを焼きましょう。
ハムだけでは出せない香ばしさと歯ごたえを出したかったのです。
塩コショウしたササミをグリルで焼きます。本当はもう少し焦げ目が付くくらいが理想でした。
ササミのあら熱もとって、カットしたハム、キュウリとともに芋とランデヴー。
コネコネしたら味見をして、足りなければ塩コショウしましょう。
出来上がったポテトサラダは、宮崎のおかんの漬けた梅干しで日の丸作った隣に。
おっさんの自作自演弁当。
実は僕には「理想のポテトサラダ」を作れない一つの制約がありまして・・・。
妻が、ポテトサラダに玉ねぎを使うことを酷く嫌うんです。
僕が今まで食べた中で、最高に好きだったポテトサラダは、
天ぷら立ち呑み うどう
078-732-3112
神戸市須磨区須磨浦通5-1-13
JR須磨駅、山陽須磨駅から徒歩5分
のこれ。
だけど日替わりのアテなのでレギュラーメニューではないのですよ・・・。
あーー、香りとパンチが効いてて美味かったなぁー、このポテトサラダ。
なんて言いながら、我が家では妻の言うとおりにレシピはどんどんアレンジされていきます。
「果たして一致しないとならば、理想にしたがうよりも実際に服するのが僕の理想だというのです」
突然ですが、理想の結婚はくじ引きのように引き当てる物でも、自分の価値基準を押し通せる相手を探すことでもありません。
「だってねェ、理想は食べられませんものを!」
料理の秘訣は一度で味を決めずに、段階的に味見をしつつ調えていくということのように、結婚の実相というのは「偶然長く続いた幸運」と言えるくらい危ういものを日々のメンテナンスでつないでいく物です。
自分の理想のポテトサラダに入れたい玉ねぎが使えないからといって、妻が自分の作った料理を口にしてくれる喜びに比べたら、そんな執着なんてなんと小さな事でしょう。
理想の結婚というのは、同じ味が好きということではなくて、敢えてお互いの好き嫌いを意思表示して、最大公約数のレシピを工夫できる関係性だと思うのです。